第70回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会並びに第70回指定都市学校保健協議会

 令和元年5月25日(土)、26日(日)の両日、新潟市において標記協議会が開催され、山田会長、高橋担当理事、大川委員長が出向いたしました。

 

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第70回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会

 

 5月25日(土)午後3:00よりアートホテル新潟駅前にて開催され、札幌、横浜、相模原、名古屋、大阪、神戸、岡山、北九州、福岡、堺及び開催市の新潟を含め11都市の歯科医師会または学校歯科医会が参加しました。開催地の新潟市歯科医師会は前日歯科保健協議会にこれまで参加していなかったので、今回は横浜市歯科医師会による代行開催となりました。

 

 事前に各都市から挙げられた協議題に対し、各都市から出された回答や提言をまとめた資料が例年のように配付されましたが、その中から5つの課題について、プレゼンテーション、意見交換などが行われました。

 

1)「指定都市資料倉庫」の利用状況について(管理する大阪市学校歯科医会より)

 あまり積極的な利用はされていないようである。著作権問題がネックになっているのか。  クラウドサービスを利用しなくても、「ギガファイル便(無料)」など重いファイルを遣り取りする方法はある。クラウドサービスに維持管理費がかかるので、継続するか、廃止するか協議願いたい。

 

 まだ立ち上げたばかりなので、利用について周知を図り、維持管理費は各都市から徴収して取りあえずまた来年度まで継続してみることになった。

 

2)「ダブルミラー法」導入を行政にどのように要望していけば良いか(札幌歯科医師会から出した議題)について横浜市歯科医師会よりプレゼンテーション

 

 横浜市歯科医師会では、学校歯科健康診断での「感染防止対策」の見地からダブルミラー法が行えるようにミラーの補充を行政に対し要望した。その際の経費の増加額について試算を行い、約4700万円と見積もった。要望に当たっては、市議会議員やPTAを対象にダブルミラー法のプレゼンテーション等を行い理解を求めた。その結果、約1年でミラーの本数の拡充に成功した。

 

3)学校歯科医報酬の各都市の現状と増額の交渉について(名古屋市学校歯科医会からの議題)日学歯からの説明

 

 学校医報酬の額は各自治体の裁量に任されていることから、各都市で算定方法、支給額はまちまちである。日学歯としては直接関与する立場にはない。各都市での交渉は三師会で協力して行うのがよい。

 

4)マスコミの誤った報道内容に対する日学歯の対応について(大阪市学校歯科医会からの議題)日学歯からの説明

 

 一部メディアが、テレビ番組、雑誌等で学校歯科保健にも関わる疑問の残る内容の報道を行っている。日学歯の対応としては、プレジデント社に申し入れを行い、日学歯佐々木常務理事の記事を掲載してもらうことにした。4月29日号に掲載された記事の中で「食後30分以内に歯みがきをしてはいけない」という不適切な報道に対する日学歯の見解を述べている。

 

5)フッ化物洗口事業の実施状況について(名古屋市学校歯科医会、福岡医学校歯科医会からの議題)新潟市歯科医師会からのプレゼンテーション

 

 新潟市のフッ化物洗口の実施率は市立幼稚園で100%、市立小学校87.7%、市立中学校14.0%である。小学校では令和元年度末には100%になる予定となっている。

 新潟県では昭和49年に上水道フッ化物添加等を目的として「子供の歯を守る会」が発足し、条例ができるまで地道に活動してきた。歯科医師のほか、医師、行政関係者、教育関係者、県民が会員となり、県知事、県議会議員、市議会議員などが顧問を務めていた。

 フッ化物洗口導入には反対派が存在するが、対策としては関係機関との連携体制の確立、関係機関への支援体制の確立が原則となる。現在は行政との連携体制として、新潟市歯科口腔保健推進条例、生涯歯科保健計画の策定、行政職歯科医師や担当課との連携、マニュアル整備が挙げられる。

 フッ化物洗口は各学校に任せたり、一部から始めようとしてもうまくいかない。教育委員会の号令のもと、一斉に導入に向け動き出すことが重要だ。

 

 

 次に、新たな試みとして「ワールドカフェ」方式のグループディスカッションが行われました。「会員減少に対する学校歯科医、園医の選出について」という議題で7グループに分かれ意見交換を行いました。学校歯科医の選考基準、学校歯科健康診断のシステムも各都市いろいろであり、それぞれに利点、欠点もあるが、総じて今のところはまだ学校歯科医の選考に苦慮している状況には至っていないようでした。しかし、兆候は現れてきており、近い将来、大きな問題となるだろうというのが大方の予想でした。

 まとめとして来賓の日学歯副会長 平塚 靖規 先生より指導・講評がありました。その中で、フッ化物洗口導入に関しては、ミラノール、オラブリス等が「医療用医薬品」として承認されているので、試薬ではなくこれらの製剤を使用してほしいと話されました。

https://www.nichigakushi.or.jp/news/180305.html

 

 最後に次期開催都市の岡山市歯科医師会の挨拶があり閉会となりました。

 

(大川 晋一 記)

 

 

第70回指定都市学校保健協議会

 

 令和元年年5月26日(日)新潟市の朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンターにて開催されました。主催は新潟市学校保健会と新潟市教育委員会で、日本学校保健会が共催、文部科学省が後援しての協議会でした。主題は「生涯にわたり、たくましくしなやかに生きる子どもの育成を目指した学校保健活動の推進」というテーマでした。

 9:30より開会式があり、その後1時間ほど主催者および来賓の挨拶と全体協議などがあり、10:45から記念講演が開かれました。

 

 

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○記念講演

 今年は、新潟市出身の元宝塚歌劇団月組組長、越野リュウ氏をお招きして「夢を叶える~宝塚への道・今輝く私~」と題した講演をいただきました。

 越乃氏は高校2年生まで新潟市で暮らし、1993年の高3になる年に、1回の受験で宝塚歌劇団第79期生として合格、その後月組でダンスと歌、芝居と三拍子そろった男役のジェンヌとして長く活躍されたそうです。その間、宝塚史上最年少で月組組長に就任、月組生80人を牽引し数々の公演を成功に導き、2013年に退団した後も地元新潟の魅力を発信する活動をしながら、ディナーショーやソロコンサートをはじめ、トークMC、フォトグラファーなど、表現者として舞台を中心に活躍している方です。

 ただ、その道は当然ながら平坦ではなかったそうです。新潟という地方都市で育ち、クラッシックバレーが大好きで長く続けてはいましたが、人前で話をしたり歌ったりすることが大の苦手であった氏が、周りの大人の勧めで宝塚歌劇団を受験するに至るまでの葛藤や、その際に負けず嫌いの自分が目を覚ましたことなどについて語られました。入団後、男役の宝ジェンヌとして成功を収めていましたが、15年目で突然、運営会社から苦手分野である「組長」という管理職(宝塚史上最年少)を命じられ、また悩みましたが受けざるを得なかったと話しておられました。

 組長時代も5年間立派にその役職を務めあげ、自身も学ぶことが多く人間として成長したと懐古されていました。しかし勇退した後、本名に戻り、新たな自分を探そうとしたところで挫折、またまた悩んでいたところ、多くの先輩たちや、越路吹雪さんとの思い出などに背中を押されて越乃リュウとして活動を再開し、「表現者」として生きていく決心がついたそうです。

 自身の長い宝塚人生のなかで、特に思い出に残る歌を6曲も披露しながら、聴衆の心に沁みるトークを展開するという越乃氏の講演は、多分これまでになかった形式(コンサート仕立て)の、とても斬新な記念講演でした。会場にいた方々は大変有意義な時間を過ごすことができたとともに、長く記憶に残る講演であったと思います。

 記念講演後の昼食タイムには、20分程度の時間で、新潟市立五十嵐中学校筝曲部の生徒さん達11名の、お琴による見事なミニコンサートがあり、新潟市の芸術文化の懐の深さに敬意を感じました。

 

○課題別協議会

 午後からは会場を4つに分け、課題別協議会が開かれました。我々は第2分科会(保健管理)を中心に歯科関係の協議に参加してきました。

 

 まず第3分科会「心の健康」に出席しました。川崎歯科医師会地域保険部学校歯科委員会の桜井康一先生が、「子ども虐待に対する学校歯科医の関わり~川崎市歯科医師会の取り組みについて~」という提言をされました。川崎市は173名の学校歯科医を有し、すべて川崎歯科医師会員が務めています。川崎市では2008年に児童相談所および児童養護施設での「川崎市における乳幼児を含む被虐待児童生徒の実態調査」が発表されたのをきっかけに、行政と連携した学校歯科委員会の取り組みが開始されたとのことでした。その年の学校歯科保健研修会において当時の日学歯専務理事の丸山進一郎先生を招いて講演会を開催したことから始まり、その後も「子ども虐待」の専門家の先生方を講師陣に招いて勉強し、様々な取り組みを行いながら現在に至っているそうです。

 川崎市の子ども虐待の現状としては児相への相談・通告件数で見ると9年間で3.3倍に増加しており、今後も増加する傾向にあるそうです。会としての取り組みの基本理念は発見・予防・事後支援の3本柱で、それぞれが補完し合う形で活動しているとのことでした。 特に力を入れていることは、子ども虐待のシグナルとしての「不自然さの発見」だそうです。これは、受診率の高い1歳半健診、3歳児健診、就学時健診、定期歯科健診などにおいて口腔内・子ども・親・親子関係の4つの視点から不自然さをチェックすることだと提言されていました。

 学校歯科医はその業務執行中の様々な場面で子どもたちの「不自然さ」に出会うことがあると考えられます。川崎歯科医師会では「不自然さチェックシート」を導入して、その情報を養護教諭やクラス担任と共有し子ども虐待の早期発見やマルトリートメント(不適切な養育)の予防・改善に努めるとともに、最近報道されているような、子どもの健全な成長に対する権利を踏み躙るような事件が、今後絶対に起きないように取り組んでいく覚悟であると話されました。

 

 次に第2分科会「保健管理」に移動し、「歯みがきは健康な生活を送るためのライフスキル ~浜寺石津小学校の歯科保健教育を通して~」という、堺市浜寺石津小学校 学校歯科医 白石敏彦先生による提言を聞きました。

 堺市浜寺石津小学校は、大阪府堺市西区にある児童数440名の中規模校で保護者や地域ぐるみで、子どもたちを見守り育ててきたという経緯があるそうです。しかし近年の児童の健康課題は多様化・複雑化しており、とくに「生活習慣の乱れ」は取り組まざるを得ない問題となっており、以前から①肥満傾向、②睡眠不足、③う歯罹患率の多さ等が問題となっていたそうです。平成18年には3歳児健診結果で、う歯罹患率が堺市西区内でワーストの地区になってしまい、それ以来、歯・口の歯科保健教育に学校歯科医と学校が連携して取り組む実践が始まったそうです。

 歯科保健教育を進めるにあたり、平成19年・20年と児童および保護者を対象に「歯と口」のアンケートを実施し、「歯みがき」の正しい知識や習慣がないことと、歯・口への関心がないことが分かり、正しい「歯みがき」習慣の定着を図る指導が始まりました。内容としては(ア)学級保健指導、(イ)個別指導、(ウ)「全国小学生歯みがき大会」への参加などです。

 次に学校歯科医と学校の連携強化を図り、双方の連絡を密にして、学校独自の検診結果報告書を保護者に送付したり、歯科衛生士が学校に出向いて学級保健指導や養護教諭への指導や助言を行ったそうです。

 その後「歯みがき」習慣が、生活リズムと大きく関わっていることを実感し、基本的生活習慣を育成するために平成21年より「生活調べ」を実施して、・早寝早起き・朝ごはん・歯みがき・はいべん・テレビとゲームの時間等を調査し、保健指導や学力向上の資料として活用しているとのこと。

 このように10年前から始めた取り組みは学校内で少しずつ定着し、継続的に行なわれているそうで、児童とそれを取り巻く保護者、学校の先生達など、皆の健康意識の高まりが認められ、歯・口の分野では、う歯罹患率、6年生のDMF指数、要受診児の歯科受診率などの結果が徐々に向上してきているとのこと。児童が生涯健康な生活を送るためのライフスキルの一つとして、「歯みがき」の重要性を6年間で是非身につけさせたいと話されていました。

 

 以上、各分科会で、それぞれの提言に対する質問と協議が活発に行われ、指導助言者による講評や、司会者によるまとめがなされ、予定通り16:30に閉会となりました。

 

(高橋 修史 記)