第83回全国学校歯科保健研究大会

 10月17日(木)18日(金)、山口県に於いて標記研究大会が開催されました。主題は『「生き抜く力」をはぐくむ歯・口の健康づくりの展開を目指して』、副題は「学校歯科保健が拓く新たな時代」と題し、その趣旨は近年の社会環境や生活様式の急激な変化に伴い、複雑多様化する子供たちの健康課題を検討していくうえで重要となるものは「科学的根拠(エビデンス)」で、それを多角的な視点から研究協議する必要があるということです。

 

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 第1日目は、「防府市立桑山中学校吹奏楽部」によるオープニングセレモニーからスタートし、開会式、表彰式と進み、表彰式では、日本歯科医師会会長賞に札幌市立定山渓小学校が、奨励賞には、学校法人北海道キリスト教学園麻生明星幼稚園・札幌市立定山渓中学校・登別市立登別小学校がそれぞれ受賞しました。

 特別講演は「教育に科学的根拠を」と題し、慶應義塾大学総合政策学部 教授 中室牧子先生が講演されました。内容は、教育・子育てに関するインターネット上の情報の多くは、特定の個人の体験やエピソードに基づくもので、一般化することが難しく個人の真似をしても同じ成果を得られるとは限らず、それよりは個人の経験を大量に観察したなかから見いだされる規則性「科学的根拠(エビデンス)」が重要であり、有用なものである。教育経済学では、理論やデーターを用いて教育を科学的に分析することが「人を育てる」時に役立つと述べられました。

 シンポジウムは、座長を日本学校歯科医会 斎藤秀子副会長が務め行われ、基調講演では「学習指導要領改訂に伴う学校歯科保健における主体的・対話的で深い学びの実現」と題し、大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子免疫制御学講座 予防歯科学 教授 天野敦雄 先生が講演されました。最初に世代の変化について、昭和はモーレツ世代、平成はさとり世代、令和は生きる世代・生き抜く世代を目指し、それを構築することが大切であり、そのためには、十分な知識技能そして応用力を身につけることが不可欠となる。その時代背景を十分に考慮し、今後の学習指導要領を考えることが大切であり、その中心となることとして、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)が重視される必要があると述べられました。

 シンポジウムは「学校歯科保健活動のもつ教育力を考える」をテーマとして、座長を明海大学学長 安井利一 先生が務め行われました。

 次に、文部科学省初等中等教育局 健康教育・食育課 健康教育調査官 橫嶋 剛 先生、大阪市立大阪ビジネスフロンティア高等学校 主務養護教諭 花松亜由先生、山口県歯科医師会 会長 小山 茂幸先生の3名から「主体的・対話的・深い学び」の学習指導要領改訂の趣旨に沿った発表があり、その後ディスカッションとなりました。

 第2日目は、領域別研究協議会がそれぞれに開催されました。

 

 【小学校部会】

 座 長 鶴見大学歯学部小児歯科学講座 主任教授 朝田芳信先生

 アドバイザー 日本大学歯学部歯学科衛生学講座 教授 川戸貴行先生

 発表者 山口県山口市立良城小学校 養護教諭 平山望美先生、河村眞琴先生

 山口県萩市立白水小学校 養護教諭 中村好子先生

 長野県駒ヶ根市立赤穂南小学校 養護教諭 小塚恵子先生

 学校歯科医 菅沼 香 先生

 

 座長の朝田芳信先生より、導入として歯・口の健康づくりと口腔機能の発達、食べること・話すこと・呼吸することの大切さ、「生き抜く力」をはぐくむ歯・口の健康づくりについて 話され、学童期における歯・口の健康づくりとは、口腔機能の発達を促し、「生き抜く力」に欠かすことができない「食べる」、「話す」、「呼吸する」という基本的機能を発達段階に応じて成熟させていくことであり、心身の健全な発育に繋がることになる。そして、学校歯科保健が拓く新たな時代とは「硬組織疾患を中心とした疾病対応」から「疾病予防ならびに口腔機能の育成」を念頭に置きながら学校歯科保健を展開して行くことであると結論づけられました。

 研究発表では主体的・対話的で深い学びに導く「歯・口の健康づくり」-みんなで創る「楽しくてたまらない」学校歯科保健-と題して山口市立良城小学校が、「生き抜く力」をはぐくむ歯・口の健康づくり-基本的生活習慣の確立に向けて-と題して萩市立白水小学校が、自分の健康に関心を持ち、進んで健康的な生活を送ろうとする子どもの育成-発展的に継続する「歯・口の健康づくり」を目指して-と題して駒ヶ根市立赤穂南小学校がそれぞれ発表しました。山口市立良城小学校は児童数804名の大規模校なのですが第4学年をターゲットにして歯・口の健康づくりに取り組んでいました。大規模校だから無理ではなく工夫すればいくらでも取り組めることではないでしょうか?札幌でも是非取り組んでほしいと願います。

 中学校部会は、座長に東京歯科大学解剖学部講座 教授 阿部伸一先生、アドバイザーとして、九州大学大学院歯学研究院 口腔保健推進学講座口腔予防医学分野 教授 山下喜久先生により行われました。最初に阿部伸一先生より、ご自身の専門的見解から食べる・嚥下・発声・呼吸等のメカニズムについて、パワーポイント・ビデオを利用しての説明があり、成人から晩年に美しく食事を味わうための形態的、そして生理的な基盤は中学校時代頃までの様々な習慣が関係していることを理解していただきたいと述べられました。

 次に、山口県下松市立未武中学校 校長 厚東和彦先生、鹿児島県阿久根市立三笠中学校 養護教諭 楠元政江先生が、それぞれの歯科保健活動への取り組みについて発表されました。

 その後、座長の阿部伸一先生より両先生に小中学校の連携を上手く機能させる方法について、また、部活動の問題についての質問がありました。特に部活動に関しては、「NO部活動day」を作ることにより歯科治療などへの時間を確保する試みを実施しているとのことです。また、アドバイザーの山下喜久先生からはエビデンス的に歯ブラシだけでは100%のむし歯予防ができないので是非、フッ素含有の歯磨剤の使用を勧めていただきたいとの要望がありました。会場からも多数の質問があり、瞬く間に90分間の研究発表は終了となりました。

 引き続き、ポスター発表の表彰式があり、閉会式は、次期開催地の福井県歯科医師会 会長 山本有一郎先生より代表挨拶があり、2日間に渡る研究大会は閉会宣言を以て終了しました。

 

 

(平山 泰志、山口 勝 記)