第69回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会並びに第69回指定都市学校保健協議会

 平成30年5月26日(土)、27日(日)の両日、浜松市において標記協議会が開催され、山田会長、高橋担当理事、大川委員長が出向いたしました。

 

第69回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会

 

 5月26日(土)午後3:00より浜松アクトタワーカンファレンスセンターにて開催され、札幌、横浜、相模原、名古屋、大阪、神戸、岡山、北九州、福岡、堺の10都市の歯科医師会または学校歯科医会が参加しました。開催地の浜松市歯科医師会は前日歯科保健協議会に加盟していないので、今回は名古屋市学校歯科医会による代行開催となりました。

 

 

1.各都市からの事業報告

 学校歯科保健に関わる事業について、例年と異なる新しい事業への取組を行った都市からの報告がありました。

 

〈横浜市〉

 横浜市行政から横浜市学校保健会への委託事業であった、歯科衛生士による学校巡回「むし歯予防事業」が予算を理由に平成28年度で打ち切りとなった。学校でも混乱が生じ、復活を望む声も多かったことから、名称を「歯肉炎予防事業」として横浜市歯科医師会への委託事業とすることで横浜市行政と交渉し、平成30年度から復活することができた。

 

〈大阪市〉

 4年生に実施している「フッ化物塗布」に関する授業を、来年度から「フッ化物洗口」に関する授業に切り替える予定で準備中。

 

〈岡山市〉

 新入会員を対象に、会立歯科技工専門学院の生徒の歯科検診を利用した歯科検診に関する研修を開始した。(岡山市では「検診日」を設け、歯科医師会全会員で市内の私立学校の歯科健康診断を一斉に行っている)

 

〈名古屋市〉

 多項目短時間唾液検査システム(SMT)の学校歯科保健への応用について試験的な検討を行った。SMTは歯の健康、歯茎の健康、口腔の清潔度に関係すると言われる6項目の唾液因子を従来よりも短時間(5分)でかつ簡便に測定できる検査システムである。愛知学院大学口腔衛生学教室の協力のもと市立小学校1校(5年生と6年生約100名)と中学校1校(約20名)を対象にSMTを用い検査を行った。SMTが児童生徒の口の健康や口腔清掃に対する関心を高めるために有効かどうか、唾液検査結果と学校歯科健診結果に関連性があるかなどについて検討している。

 

 

2.協議

1)日学歯生涯研修制度 「更新研修」の開催方法について

 政令指定都市でも日学歯の加盟団体となっている都市は少数である。ほとんどは県歯レベルでの開催を予定している。

 

〈大阪市〉

 更新研修の内容は法令の改正点などわかりづらい内容が多い。日学歯からのCDのスライドも文字ばかり多くて興味を引くものではない。

〈日学歯より回答〉

 各加盟団体に送付したCDは、そのまま使うのではなく、各加盟団体でピックアップ、あるいは追加して使用してほしい。今後は基礎研修に使用するスライドをその都度更新し、変更のあった部分のみを更新研修に使用するような方法を考えている。

 

 

2)指定都市資料倉庫の活用について

 発案者の大阪市学校歯科医会に管理をお願いして試験的に運用していたが、1年間、利用はなかったとのこと。DropBoxの使用料、著作権など課題は多い。現在、アップされているものに関しては著作権問題はクリアされているということなので、年間使用料を各都市で年約15,000円ずつ負担、各都市で責任者を決めるという条件で継続運用していくことを検討。

 

3)新学習指導要領のアクティブラーニングを学校歯科保健教育に適用するには?

 学校歯科保健教育に関しては、すでに問題解決学習法などのアクティブラーニングが広く取り入れられている。

 

4)大規模校では秋期検診と事後措置の取り組みかたが困難なことが多く、歯科保健活動では小規模校との格差が生じてしまう。その対応策は?

〈名古屋市〉

 大規模校で秋期臨時健康診断を義務化した学校があり、学校歯科医になり手がないという事態が発生している。

〈岡山市〉

 行政に対して秋期健康診断の導入を働きかけているが実現していない。

〈大阪市〉

 大規模校でも養護教諭、担任などの教諭、保健委員の児童・生徒などを動員して行えば可能。会と市教委が主催して養護教諭対象の研修会を行っていることが大きな成果につながっている。

 

5)大規模校の検診への対応について

〈横浜市〉

 児童生徒数1000人以上の学校は学校歯科医が希望すれば応援医を配置することができる。

〈相模原市〉

 行政にて児童生徒数501名以上の小中学校は2名体制と定めている。

〈大阪市〉

 教育委員会が基本的には応援医を認めていない。学校歯科医一人で複数日かけて行うのを基本としている。

〈堺市〉

 601名を超えると2名体制になる。

〈北九州市〉

 1133名の学校は学校歯科医2名。

〈福岡市〉

 教育委員会との取り決めで850人以上は学校歯科医二人配置。

〈名古屋市〉

 一人一校で、応援医は基本的には認めていないが、個人的に帯同している学校歯科医が存在する。今後、条件を設定し、研修を終了した歯科医のみ応援医になれる制度を模索中

 

6)将来、大規模校の学校歯科医就任を希望する地域の歯科医が不足するのではと心配する。対応策は?

 現在のところ心配していない、大規模校には応援医制度があるので問題ない、などの意見が多かった。学校歯科医の地域への貢献について会員によく理解しておいてもらうことが大切との意見も出された。

 

7)学校歯科医一人での複数校担当について

 原則一人一校だが、例外もあるという都市が多かった。

 

8)学校歯科医以外が検診を手伝う場合、事前に研修などを行っているか?

 「代理学校歯科医制度」のある横浜市、「協力医制度」のある北九州市は研修を行っている。岡山市は全会員で一斉に検診するので、全会員を対象に研修会を行っている。学校歯科医以外の検診を認めていない相模原市、堺市からは、傷害保険の対象が学校歯科医のみであるという指摘があった。

 

9)学校歯科医の選定方法と基準について

 基礎研修会等の研修会への参加、日学歯への入会を条件としている都市もある。神戸市は昨年度より委嘱時に会と本人との間で「確認事項」の文書を取り交わしている。区(支部)レベルでの選考を行っている所も多い。

 

10)学校歯科医手当はどのように配分されているか?

 岡山市は学校歯科医は一人一校であるが、健康診断は全会員で一斉に行っており、学校歯科医報酬は会が「適切に」配分していることからこの質問が出されたものであるが、他都市は振り込み時期の違いはあれど直接学校歯科医に支払われている。

 

11)小学校におけるフッ化物洗口について

 各都市とも実施していない、あるいは導入がうまく進んでいないということであった。

 〈大阪市〉

 これまで小学校4年生対象にトレー法を用いたフッ化物塗布を行ってきたが、それを来年度よりフッ化物洗口に移行すべく準備を進めている。新任の学校保健担当課長代理が協力的。このようなキーパーソンの存在が重要である。

 

 来賓の日学歯副会長、平塚靖規先生から、京都市ではトップダウンの形で全校に導入されたとのお話があった。(京都市は現在、この協議会には参加していない)

 

12)中学校のカリキュラムでできる歯科保健活動について

 福岡市からは、例えば歯肉の健康、口臭、不正咬合、外傷などのテーマで、より専門性をもった参画が可能ではないかとの意見が出された。

 

13)会員や行政や関連団体との児童虐待、ネグレクト対策について

 横浜市は「歯と口の健康週間行事」において市民への啓発に取り組んでいる。堺市、名古屋市はチェックシートを作成、配布している。

 

14)学校歯科医の学校でのトラブルに対する会の対処方法について

 いわゆるモンスターペアレントなどによるトラブルも増えてきている。何れの都市も会が介入し、市教委と連携して対処している。

 

15)各都市の学校歯科関係年間予算について

 各都市より収支予算が示されたが、学校歯科医会、歯科医師会の学校歯科部門という組織の違い、行政や学校保健会からの補助金の大小などにより様々であり、単純な比較はできない。

 

16)会員に毎年、資料などを送付しているか?

 必要に応じてマニュアルや教材を作成して配布しているところが多い。「学校歯科医会」は会報等を定期的に送付している場合が多い。

 

17)学校歯科健康診断データの収集と活用について

 検診結果は教育委員会がとりまとめを行っており、市教委からデータを提供してもらっている都市が多い。データは優良校の選定、学校歯科医間の検診基準の差の調査などに利用されている。

 〈横浜市〉

 横浜市学校保健会がデータ収集。

 〈北九州市〉

 4年に一度「学校歯科保健調査」を実施。報告書を額学校歯科医に配布している。

 〈名古屋市〉

 教育委員会が「専用回線」を用いて各学校から収集したデータは、健康福祉局にも提供され、名古屋市全体の歯科保健に関する施策に利用されている。

 〈日学歯〉

 IT化が進む中で、データの管理を全国統一されたフォーマットで行えるように文科省に要望している。

 

18)私立学校の学校歯科医との連携・検診基準の周知などはどのようにしているか?

 各都市とも私立学校については把握していない。今後の検討課題である。

 

◇◇◇

 

 来賓の日本学校歯科医会 平塚 靖規 副会長、柘植 紳平 副会長は、大都市には大都市特有の課題があり、大変有意義な協議会であると述べられました。今回の協議会には日学歯から2名の副会長の出席があり、本協議会と日学歯の連携がさらに深まったものと思われます。政令指定都市の中でも、日学歯の加盟団体になっている都市は少数であり、大都市からの意見を直接日学歯に上げるという点においても、日学歯の考え方を直接、大都市の会員に伝達できるという点においても、この協議会が日学歯との連携を深めることの意義は大きいと考えます。

 

 

(大川 晋一 記)

 

 

第69回指定都市学校保健協議会

 

 5月27日(日)午前9:30よりアクトシティ浜松にて開催されました。主催は浜松市学校保健会と浜松市教育委員会で、日本学校保健会が共催、文部科学省が後援しての協議会でした。主題は「夢と希望を持ち、心豊かですこやかに生きる力を育む学校保健の推進」というテーマでした。

 9:30より開会式があり、その後1時間ほど挨拶および全体協議などがあり、10:45から記念講演が開かれました。

 

 

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 今年は、夏・冬のパラリンピックで活躍するプロアスリート・大阪体育大学客員準教授の山本篤氏をお招きして「挑戦する大切さ」と題した講演をいただきました。山本氏は開催地の地元、静岡県の出身で36歳、高校時代、バレーボール部で有望な選手として活躍していましたが、バイク事故で左足を大腿部より切断。卒業後に通った日本聴能言語福祉学院・義肢装具学科で陸上用義足と出会い競技人生を開始したそうです。その後大阪体育大学大学院で運動力学を研究し、自らの走りを科学的に分析することによって義足を修正、改良し日本記録を更新してきました。2008年北京パラリンピックでは走り幅跳び銀メダルを獲得、日本パラリンピック陸上初のメダリストとなり「義足アスリート」として世に広く知られるようになりました。2016年にはパラ陸上日本選手権走り幅跳びで当時の世界記録を更新、その年の8月に開催されたリオデジャネイロパラリンピックでは、4×100mリレーのアンカーを務め銅メダル、走り幅跳びでは2大会連続の銀メダルを獲得しました。さらに驚くことに2018年平昌パラリンピックでスノーボード競技にも出場し、冬の競技への挑戦も開始しました。

 山本氏は、己の抱えるハンディの有無に関わらず、人が何かに挑戦していくことの楽しさと大切さを活き活きと話され、我々聴衆に感動と勇気を与えてくれました。2年後の東京パラリンピックでは「悲願の金メダル獲得を目指す」と、固い決意も述べられていました。

 

 記念講演後の昼食タイムには、20分程の映像教材による学校保健講習がありました。内容は「学校における食物アレルギー対応のシミュレーション」という題で、浜松市教育委員会と浜松市消防局が合同で作製したDVDが紹介されました。学校現場で実際にアナフィラキシーショックが発生した場合を想定し、幾つかの対応パターンをドラマ風に作成した映像教材が放映されました。

 

 午後からは会場を4つに分け、課題別協議会が開かれました。私は第1分科会(健康教育)に出席してきました。会の目的は、「子供が自らの健康に関心を持ち、主体的に健康の保持増進に取り組む能力を育成する健康教育の在り方について協議する」というもので、5つの口頭提言がありました。

 

 №1は、「自分の体を知り、自分ごとと思える健康教育を目指して」と題して、横浜市の学校歯科医が横浜市体力向上研究校の授業研究会に参加した体験をもとに発表されました。学校歯科医が目に見える実践教材である口の中を利用して、現場で健康教育を行う意義と、それらの活動を望んでいる学校歯科医が多数いることを紹介し、もっと遠慮なく我々を利用してほしいと話されました。また、ご自身の授業研究会の前後で、子供たちの意識にどのような変容があったかについて報告されていました。

 

 №2は名古屋市からで、珍しい小・中一貫教育校の養護教諭からの提言でした。6年生の「病気の予防」の保健学習を通して、生活習慣病についての知識を自分の生活と関連付けて学ばせることで、健康行動の重要性を理解し、自ら行動に移すことができる児童の育成を目指した保健教育が紹介されました。

 

 №3は、「生徒が主体的に活動する委員会活動」という題で、京都市の高等学校の養護教諭からの提言でした。各クラスから2名選出された保健委員46名を中心にして、「自分事感」をキーワードに、清潔な環境維持と健康課題に向けて活動した取り組みが発表されました。楽しく学びながらその提出率を上げる「検尿提出作戦」や校内美化のなかでも、生徒の日頃の保健衛生意識を一番に感じ取れる「トイレの清潔な使用」を啓発するために、毎年「トイレ川柳」の募集と優秀賞表彰を行うなど、ユニークな活動の報告がなされました。

 

 №4は「行動変容につなげる健康教育」という提言で、神戸市の小学校の養護教諭からの発表でした。健康な生活が大切であることを知っていても、なかなか自身の行動変容までに至らないことを問題視して、その対策への取り組みを行う実践研究でした。発達段階に応じた指導が効果的だと考え、この題の研究を続けてきたとのことです。低・中・高学年の3グループに分かれてそれぞれにテーマを与え、生活を振り返るチェックカードや、目標の達成度を評価するチャレンジカードを独自に考案し、子供達自身が評価しやすい形でテーマに取り組めるようにと努力した内容が報告されていました。

 

 №5は公益社団法人北九州市薬剤師会からの提言発表でした。「健康教育に関する取組について」という題で、北九州市の小・中学校担当学校薬剤師の年間執務状況紹介と学校薬剤師に対する研修内容の紹介などがありました。活動内容としては、薬物乱用防止キャンペーン「ダンスフェスティバル」、北九州市「ダメ。ゼッタイ。」普及運動、などのユニークなキャンペーン事業を展開しており、それらについての紹介と説明がありました。今後も教育現場で求められているチームティーチング等にさらに積極的に関わっていきたいという意思を発言されていました。

 

 以上、5つの提言に対する質問と協議が終了した後は指導助言者による講評があり、その後司会者によるまとめと閉会がなされ、予定通り16:30に終了となりました。

 

 

(高橋 修史 記)