第81回全国学校歯科保健研究大会

 10月26日(木)、27日(金)の両日、第81回全国学校歯科保健研究大会が青森市の「リンクステーションホール青森」にて「『生き抜く力』をはぐくむ歯・口の健康づくりの展開を目指して―学校歯科からはじまる8020健康社会―」をメインテーマに開催されました。1日目は、開会式と全日本学校歯科保健優良校表彰式があり表彰状授与と受賞校代表より謝辞がありました。

 

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1日目


基調講演:「健康長寿社会の実現に向けたライフコース・アプローチ」


東北大学大学院医学系研究科 教授 辻 一郎先生


 

 健康長寿を実現するためには、生涯を通しての健康アプローチを続けていくことが大切で、胎児期だけでなく幼少期や思春期におけるさまざまな環境・経験・生活習慣・行動などが成人期以降の健康や疾病にも大きな影響を及ぼしていることが分かってきている。

 歯科保健と全身の健康とのアンケート調査では残存歯が少ない人ほど要介護リスクや死亡リスクが高くなるが、歯を失った人でも定期的な歯科受診や歯みがきを行えば要介護リスクや死亡リスクはあまり上がらない。中高年になってから「健康」に取り組むのでは遅く子供の頃から考えて行かなければならない。

 生活習慣が健康に及ぼす影響として、人々の嗜好や行動は社会環境や時代の価値観により大きな影響を受けており、近年「分煙・禁煙」環境が進み喫煙率は下がってきている。また、地下鉄や電車、バスなど公共交通が発達している大都市に住む人は地方と比べ歩数が多いことが分かっており、個人の「健康づくり」は個人の努力だけではなく「社会環境」も影響を与えている。最後にそこに暮らすだけで自らが意識することなく誰もが健康になれる社会を創ることができれば、健康格差は減らすことができる。生涯を通しての健康づくりを支える社会環境の整備や、学校での健康教育が重要であると述べられました。

 

シンポジウム 「口腔機能の健全育成を求めて」のねらい


座長 明海大学学長 安井利一先生

 

①昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座教授  弘中祥司先生

②佐世保市立広田小学校教諭  福田泰三先生

③一般社団法人青森県歯科医師会監事  高瀬厚太郎先生

 

 3名のシンポジストからそれぞれの立場で、取り組み事例の報告がありました。

①「歯・口の健康を支える摂食嚥下機能の正常発達」と題して講演があり、乳幼児における摂食機能の発達は段階を踏んでステップアップするため、保護者は哺乳、介助食べ、手づかみ食べ、一人食べ、とそれぞれの段階で乳幼児に合わせた介助をしなければならない。特に手づかみ食べは前歯を使った一口量の調整と、食べ物の「硬さ」「温度」「大きさ」「重さ」などの感触が伝達するので大変重要である。最近では行政を中心に食べ方の支援を行っている地域が増えてきており、食べる機能をサポートすることが大事であると述べられました。

②「学級担任として子供の発育を見据えた保健指導の在り方と可能性が広がるアクティブラーニング保健学習~自分の健康は自分で守れる子供の育成を目指して~」と題して報告があり、子供自身が成長段階において健康に対する課題を見つけるきっかけとなる働きかけをし「自分の健康は自分で守れる人間の育成」を目指す。問題発見解決型学習を通して生涯にわたる身体と心の健康の保持増進につながる習慣づくりができるように育んでいく必要がある。健康教育の中でも「食育」に関しては子供にとっても興味関心があり、学校での学びが家庭でも実践されやすいので意識・行動変容にもつながると述べられました。

③「学校歯科保健からはじまる8020健康社会」口腔機能の健全育成を求めて 青森県の健康事情について報告があり、「健康あおもり21」を実施し全国一の短命県返上を重要課題とし、早世の減少と健康寿命の延伸により全国との健康格差の縮小を目指している。う歯有病者率も多く年2回の歯科健康診断の実施、歯型とりにより顎の成長や生えかわりに気づかせる、「噛ミング30」による口腔機能と食育を進めてきた事例についての報告がありました。

 

2日目


領域別研究協議会


 

1.幼稚園・認定こども園・保育所部会

2.小学校部会

3.中学校部会

4.高等学校部会

5.特別支援教育部会

 

 各部会では、それぞれ3名の発表があり、実践活動についての報告と活発な質疑応答がありました。

 中学校部会では、座長の北海道医療大学歯学部歯科矯正学 溝口 到 教授からは「悪い歯並び・咬み合わせが健康に及ぼす影響」と題して講演があり、不正咬合のなかでも「叢生」は若い世代で歯のサイズが大きくなってきていると指摘され、歯みがきによる口腔清掃が困難となりむし歯や歯周病になりやすいこと、「上顎前突」は口唇閉鎖不全から習慣性口呼吸に移行しやすいこと、また口の中が乾燥しむし歯や歯周病菌が増加すると話され、不正咬合の治療により口元、顔の見かけが良くなるだけでなく、それに付随するさまざまな生理的、機能的恩恵をもたらしてくれると述べられました。

 岩手県二戸市立福岡中学校の養護教諭からは「望ましい健康行動を実践できる力を育み、自己実現ができる生徒の育成」と題し学校歯科保健活動の取り組みについて報告がありました。学校歯科医の講話や歯科衛生士によるブラッシング指導を行うことで口腔内に関する意識が向上した。また、健康診断結果を早く知りたいと言う生徒が増え治療に前向きになったと述べられました。

 青森県西津軽郡深浦町立岩崎中学校の養護教諭からは「目指せ!むし歯ゼロ」~歯科講話とブラッシング指導を通して~と題し小規模校での取り組み内容について報告がありました。6月の「歯と口の健康週間」に合わせてブラッシング指導の強化、11月の「いい歯の日」に会わせてカラーテスターを用いての染め出しと写真撮影を実施し歯みがきに対しての意識を高めた。小中合同学校保健委員会を実施することで、小学校の時から「歯・口の健康」について心がける意識改革につながったと話されました。

 両日の講演を通して生涯を通し健康を維持するためには、子供の頃から継続して健康問題を「他人ごと」ではなく「自分ごと」と捉えて自分の健康は自分で守るという意識が大事だと感じました。

 

 

(塚本 晃也 記)