第68回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会並びに第68回指定都市学校保健協議会

 平成29年5月20日(土)、21日(日)の両日、堺市において標記協議会が開催され、山田会長、高橋担当理事、大川委員長が出向いたしました。

 

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第68回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会

 

 5月20日(土)午後4:00よりホテルアゴーラリージェンシー堺にて開催され、札幌、横浜、相模原、名古屋、大阪、神戸、岡山、北九州、福岡、堺の10都市の歯科医師会または学校歯科医会が参加しました。

 

1.各都市からの事業報告

 学校歯科保健に関わる事業についての報告が各都市5分ずつの持ち時間で行われました。

 

〇横浜市

・児童生徒数500名以上は学校歯科医2名体制。1000人以上になると「応援医」制度がある。また、学校歯科医が病気などで検診に行けない場合は「代理医」制度がある。応援医、代理医も研修を受けている。

・学校歯科保健委員会のHPを立ち上げた。

 

〇大阪市

・ダブルミラー方式採用80%。

・指導者講習会を開催。京都市のフッ化物洗口事業の立ち上げに関わった、日学歯の今井健二常務理事を講師に招いて、その取組について講演いただいた。

 

〇神戸市

・学校歯科医委嘱時には14項目の確認事項を設け、書面を取り交わすことにした。委嘱は2年ごと。

・昨年度は50台のオートクレーブが学校に導入された。

 

〇岡山市

・67歳以下の会員全員で全小中学校の検診を1日で終了する方式。

・学校のオートクレーブ設置率100%。

 

 

2.協議事項

 事前に各都市から出された協議題について関連するものをまとめて順次協議されました。

 

①会員の指導管理や学校との連携

横浜市:学校歯科医のなり手(複数校)について

全国的には1校に複数の学校歯科医が配置されている例や、逆に一人の学校歯科医が複数校を担当しているところもあるようだ。横浜市には18区あり、その中でも学校歯科医就任希望者よりも学校数が少ない区もあれば、年齢(75歳を超えて次年度推薦しない)や個々の理由により学校歯科医のなり手がいない区も出てきている。他都市ではこのような問題は起きていないのか。

 

*相模原市は77歳定年。児童生徒数500名以上で2人体制。

 

横浜市:学校歯科医の推薦基準や、研修会、知識向上のために課していることについて

学校歯科医推薦基準としては開業後の年数、研修は地区歯科医師も含め何年かに一度の参加推奨あるいは義務化があるが、他都市の状況は?

 

横浜市:養護教諭や他の学校医との関係を向上していく方法について

学校間の学校歯科保健への意識のばらつきを無くすために、また学校歯科医が学校で健康教育について共通認識を持つために、他の部会との連携が重要であると思うが、協議会や合同研修会等を実施している都市はあるか?

 

神戸市:各区や支部レベルで養護教諭をはじめとする学校現場との情報・意見交換の機会について

神戸市では教育委員会をオブザーバーとして神戸市歯科医師会と神戸市養護教諭研究会代表との間で年一回の懇談会を行い、学校現場との情報・意見交換を行っている。また、医師会では区毎でもそのような機会を設けているとも聞く。他都市での区や支部毎における情報交換の機会の有無や頻度、そのシステム等は?

 

神戸市:学校歯科医の任期有無や任期更新時に課している必要条件等について

日学歯入会や様々な研修会受講単位数等、任期更新時に課している必要条件はあるか?

 

大阪市:専門研修受講修了者の現状とその人材の活用について

大阪市では5名の理事が日学歯の専門研修に参加して受講修了者となり、現在2名の理事が受講中である。大阪市では受講修了した理事が講師となって基礎研修会を開催しているが、専門研修で受講したグレードの高い研修内容を一般会員にも伝達する方策がないものかとか模索中である。他団体の専門研修の受講状況と活用方法は?

 

*現在のところ、専門研修修了は「宝の持ち腐れ」状態になっていることは否めない。

 

②学校歯科健康診断について

横浜市:健診レベルのばらつきについて

本会には約500人の学校歯科医がおり、学校歯科健診時の質の向上を目指している。他都市での取組は?

 

*横浜市では2年以内に研修を最低1回受講することを義務化している。新人研修はオンラインでいつでも視聴できるようになっている。

 

神戸市:ダブルミラー法の普及率を上げる為の工夫等(健診の体制)について

神戸市歯科医師会ではダブルミラー法を推奨している。しかし、兵庫県歯科医師会の平成28年度学校歯科保健アンケート調査(養護教諭向け)によると県下で健診時にダブルミラー法を採用しているのは、小学校:39.0%、中学校:37.1%、高等学校:30.9%、特別支援学校:15.6%と低い結果であった。他都市におけるダブルミラー法の普及率を上げる為の効果的な工夫や取組は?

 

*ダブルミラー方式採用100%の都市:横浜市、相模原市、堺市。神戸市はミラーの数は十分に準備されている。ミラーの数、滅菌の手間も2倍になるので予算等について市教委との交渉が必要。

 

神戸市:健診時における児童のプライバシーの保護(新たな試み等)について

近年、個人情報の保護等が問題となっているが、歯科健康診断時に個人の口腔内の状態や問題点が他の児童、生徒に簡単に解ってしまう体制が多いようである。学校によっては、パーテーションの利用、待機児童にブラッシング等の教育教材の視聴を行う等の対策がなされているようであるが、他都市におけるこれまで健診時のプライバシーでのトラブルの経験、また、対処法等は?

 

*保健室に一人ずつ入れて検診する例が紹介されたが、小規模校だからできることか。

 

岡山市:学校健診等での手指、機材の衛生管理について管理基準等について

昨今、歯科にまつわる衛生管理の問題が注目されている。岡山市では1歳6ヶ月検診で検診医の幼児の口腔内への指入れが父兄より指摘され、現在は検診者は幼児ごとにグローブの交換することで対応している。しかし大規模校などの検診ではコストおよび時間の問題で一人ずつグローブを交換することが大変難しい状況にある。各都市ではどのような基準を設け、またどのように対処しているのか。

 

③学校歯科保健の諸活動

横浜市:各都市における児童虐待について

ご周知のとおり全国で児童虐待相談対応件数が増えてきていることから学校歯科健康診断や歯科診療所での対応が不可欠になってきている。本会でも具体的な対策を立てていくことになり、3月から横浜市こども青少年局との協議を開始した。他都市ではこの問題において具体的にどのような対策を立てているのか。

 

*個人からの通報はリスクが高いので、大学病院に依頼し通報してもらう仕組みを作るのが良いとの提案があった。

 

名古屋市:ネグレクトに関して実際に現場で遭遇したケースでの対応について

実例があれば、その経過・問題点を教えていただきたい。

 

*岡山市から、歯科医院からの通報の事例で児相が当事者に通報元をバラしてしまいトラブルになった例が紹介された。

 

札幌市:各都市におけるフッ化物洗口への取り組みについて

札幌では、大都市でフッ化物洗口を広めていく難しさを痛感しているのが現状である。「フッ化物洗口」について、普及に向けた最近の取り組み状況など新たな情報はないか?

 

*大阪市では小4を対象にフッ化物塗布を約40年にわたり実施してきている。北九州ではイオン導入法を行っている。フッ化物洗口については、画期的な策を講じている都市はないようである。

 

④保健教育のための教材等の共有について

札幌市:指導用教材等の共用の具体的方法と著作権等の諸問題について

前回協議会でオンラインストレージについては具体的な提案があったが、実際の運用方法についてまでは踏み込めていない。運用上の諸問題の洗い出しとその解決法を協議し、この画期的な試みを早期に実現させたい。

 

大阪市:パワーポイントスライドなどの共有するデータの資材倉庫について

この協議会に参加する指定都市で「前日学校歯科協議会資料倉庫」(仮称)のようなドロップボックスを創設して「各団体が所有する歯科保健教材用のパワーポイントスライド等の資料を共有できないものか」と去年の本協議会で提案した。稼働させるための具体的な方策や問題点を協議したい。また、日学歯が開設する予定の「加盟団体ボックス」との連携も協議したい。

 

*著作権問題、管理費用の問題は未解決。大阪市学校歯科医会で試用版「データ庫」を立ち上げていただき、その上で協議を重ねることになった。

 

⑤今後の前日歯科保健協議会について

大阪市:平成30年度の浜松市での本協議会の開催について

来年度の浜松市は前日歯科協議会に参加していないため、代行主催をしてくれる指定都市を協議したい。また、代行都市をお願いする基準を決めて、平成31年度の新潟市での本協議会をどのように開催するかも協議したい。

 

*浜松市に近いことから名古屋市学校歯科医会から代行開催の手が上がり、満場一致でお願いすることに決まった。尚、平成31年度の新潟市では横浜市歯科医師会の代行開催が内定した。

 

3.指導・講評

日本学校歯科医会 藤井 正博 専務理事より指導・講評、日学歯最新情報の報告がありました。

 

・専門研修は今後2年間は東京のみで開催。

・学校健康診断のそれぞれの項目の診査基準[1]については確固とした裏付けデータがないのが現状なので、近々データ収集のため各加盟団体に調査をお願いする予定。

・学校医報酬に関わる地方交付税の増額は難しい情勢だが、整形外科の学校医の配置が予想され、学校医報酬の減額につながる恐れがある。

・歯科衛生士不足の対策について、日本歯科医師会より協力依頼があった。

・生涯研修制度基礎研修会開催に際しては、早い段階で申請があれば「文科省後援」にできる。

・データ共有のための加盟団体ボックス設置に関しては、著作権問題等について専門家を交えて調査中。

 

 

第68回指定都市学校保健協議会

 

 5月21日(日)午前9:30より午後4:30までホテルアゴーラリージェンシー堺にて開催されました。

「子どもの豊かな心と健やかな体の育成をめざした学校保健活動の推進」というテーマで、教職員、学校医、学校歯科医、学校薬剤師など大勢の学校保健関係者が集まり研究協議しました。挨拶、祝辞の後、全体協議会では来年、第69回は浜松市で開催することが確認されました。

 

【記念講演】

 

「根拠のない自信を信じろ!~根拠はおのずとついてくる~」

元ラグビー日本代表 大畑 大介 氏

 

 大畑氏といえば、大学生の時からラグビー日本代表に選出され、その後代表キャプテンも務められ、2度のワールドカップ出場を果たしている日本を代表するラガーマンです。代表試合でのトライ数の世界記録保持者でもあり、天才がさらに順風満帆でラグビー界の頂点に上りつめたかのように思われがちです。しかしそこにいたる過程には、数々のハンディを不屈の精神で乗り越えてきた、強烈な自己実現への欲求があったようです。 今回の講演は、主に彼が小学校3年生でラグビーを始めたきっかけから、大学生でラグビー日本代表入りを果たすまでの話が語られました。決して体は大きくなく、何度となくケガに泣かされてきた大畑氏の少年時代ですが、ラグビーをやめようとは一度も思わなかったそうです。中学生の時、体の成長期特有の関節の痛みに悩まされて全力疾走ができずに、大スランプに陥ったそうです。しかしそんな時も、彼はくさることなく、ラグビーをすることは自分にとって「自分の存在というものを社会に対し表現し、また影響を与え、そしてつながっていける、唯一といえる手段なのだ。」と思えたことが大きな人生の転機になったとのことです。それゆえ泣き虫で、周囲への協調性がなく、ダメな子であった自分が、なぜか急に心に湧きあがってきた「為せば成る」という言葉を信じ、考え、この言葉に近づけるように努力をしたことが、今につながっていると話されていました。

 人間とは、たとえ明確な根拠がなくとも、「こんな自分になりたい、なれる、なろう」と思うことが人生へのチャレンジ精神を育て、明確な目標を立てることができ、一つずつ達成するたびに自信を手に入れ成長していくものではないかと語られました。

また、最後に2年後に迫ったラグビーワールドカップ日本大会をみんなで盛り上げていきましょうと、今のアンバサダーの立場からアピールされました。「体の大きい人も小さい人も、足の速い人も遅い人も、一人ひとりが自分の役割を最大限全うしボールをつないでいくラグビーは、社会の縮図のようなスポーツだと思う。」と結ばれていました。

 

【ランチョンセミナー】

 

「子どもの生が輝く眠育~堺市立三原台中学校の取組~」

熊本大学医学部 三池 輝久 名誉教授

堺市立三原台中学校 木田 哲生 教諭

 

 「眠育」とは、睡眠の意味、大切さなどについての健康教育のことです。NHKのテレビでも取り上げられた三原台中学校の取組が木田先生より紹介されました。

 また三池先生の研究では、睡眠不足が蓄積すると体内時計が完全に狂ってしまい、自律神経の失調で心身に不調が現れるようになるということでした。そうなると、もう自分の意思に関係なく朝起きられなくなり、不登校になります。入院しての治療が必要になるとのことでした。そうなる前に気づいてあげなければならないと述べられました。

 

【課題別協議会】

 午後からは健康教育、保健管理、心の健康、地域保健の4つの分科会に分かれて研究協議が行われました。我々は第4分科会「地域保健」に出席しました。協議題は「学校・家庭・地域の連携協働による学校保健活動の推進」で、5つの口頭提言がありました。

 

 ①仙台市学校保健会学校薬剤師部会からの、「地域と連携して取り組む防煙教育」では、地域と連携しての「若林区健康づくり区民会議」を組織し、東日本大震災を経たにもかかわらず平成13年から継続して取り組んでいる活動に説得力がありました。寸劇を使ったタバコの害に対する教示やロールプレイングを利用して、タバコに誘われたときの断り方などの取り組みが紹介されました。事前・事後のアンケートの実施結果により、子どもの変容が数値として示されており興味深い内容でした。

 

 ②北九州歯科医師会学校保健委員会よりの、「学校保健調査から見えてきた事とその対応について ~う歯の変遷と健康格差~」では、30年の長きにわたり学校歯科保健調査を実施してきたデータからの提言でした。う歯有病者率が28年間で40%減少していることは、学校歯科医の熱心な衛生教育の成果と思われました。特に30%の学校で、大変と思われる給食後の歯みがきが実施されていることは、学校・家庭との連携が見て取れるものでした。問題点としてはう歯のない子と極端にう歯の多い子の二極化が進んでいることや、学校保健委員会での活動が歯科保健教育に十分活用されていない実態があり、改善点であると話されていました。

 

 ③神戸市立小学校の学校薬剤師から「神戸市における学校薬剤師の活動と今後に向けての課題」という提言がありました。学校医や学校歯科医が健診などを通じて、顔を覚えてもらえるのに対して薬剤師の学校保健活動はそうではないとのこと。子ども達に親近感が湧き、そのことが指導効果のアップにつながるよう努力しているという提言でした。生徒自身がテーマを決めて取り組む学校保健委員会を立ち上げ、保護者も巻き込み意見交換をする独自の「健康会議」の様子が紹介されました。学校薬剤師同士のネットワークをつくり情報交換をしていこうとする意見も述べられました。

 

 ④浜松市立中学校の養護教諭から「自己肯定感をもち、自他の命を大切にできる心の育成をめざして~生と性を考える週間の実践を通して~」では、地域の人材や施設を活用して、命への教育と性教育を組み合わせた難しい問題に取り組んでいる内容が紹介されました。核となる「生き方教室」は10年前から実施しており、地域の助産師の講話を中心にした講座では、リアリティーある命へのメッセージを確実に子供たちに伝えているようでした。

 

 ⑤千葉市立小学校の保健主事から「心身ともに健康で豊かな生活を営むことのできる子供を育成する学校保健委員会~家庭・地域との連携を通して~」の提言がありました。学校保健委員会で家庭、地域、教職員、児童がそれぞれ意識を高めていける取り組みを実践していて、子どもの主体性が高まり行動変容につながる様子が報告されていました。児童へ知的な刺激を与える「すくすくトーク」、保護者の意識を高める「健康トーク」などを開催し、学校医、学校歯科医、学校薬剤師はもとより、救急救命士など地域の人的資源を上手く活用して共通理解を深める工夫が実践されていました。

 

各提言の後は一題ずつ活発な意見交換がなされ、最後に指導助言者である大阪府立大准教授からの講評があり、さらに慰労と励ましの感想が述べられました。

 

 

(高橋 修史・大川 晋一 記)