第66回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会並びに第66回指定都市学校保健協議会

平成27年5月16日(土)、17日(日)の両日、名古屋市において標記協議会が開催され、藤田会長、大森担当理事、大川委員長が出向いたしました。

 

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第66回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会

 

5月16日(土)午後4:00より名古屋栄東急REIホテルにて開催され、大阪、神戸、岡山、福岡、北九州、名古屋、横浜、堺、札幌の9都市の歯科医師会または学校歯科医会の参加がありました。

 

1.各都市からの事業紹介

 

1)大阪市学校歯科医会

「大阪市の中学校における学校歯科医と養護教諭による保健指導について」

従来の「中学校 歯・口の健康教室」は、中学校1年生を対象として、大阪市教育委員会、大阪府歯科衛生士会、ライオン歯科衛生研究所から歯科衛生士が派遣されて行なわれていたが、大阪市教育委員会の諸事情により歯科衛生士派遣が中止になったことを受けて、平成24年からは、学校歯科医と養護教諭によって各学校の実状に応じた内容や手法で保健指導を行なう「歯・口の健康づくり」に変更された。  事業の推進のため、大阪市学校歯科医会では中学校の学校歯科医と養護教諭対象にこれまで計5回の「歯・口の健康づくり研修会」を開催した。研修では、これまでの保健指導内容と今後の実施内容の説明、実践発表、テーブルクリニック形式の体験実習を行った。

 

2)神戸市歯科医師会

「神戸市よい歯の表彰について」

「神戸市よい歯の表彰式」は神戸市立学校園において歯科保健の向上を図る目的で、口腔衛生優良校園と児童・生徒を表彰しており、優良賞受賞者全員に記念メダルが贈られている。この事業は神戸市歯科医師会と神戸市教育委員会との共催で行っている。

 

3)名古屋市学校歯科医会

「学校歯科健康診断における不正咬合(M,MO)の問題点について」

名古屋市学校歯科医会では不正咬合の検診に関してM,MOを提唱してきたが、今までの基準には問題点があった。幼稚園から高校まで同一基準になっていたことと、基準そのものが大雑把なものであったということである。そこで、基準を各ステージごとに見直し、判断の参考にできるように実際の口腔内写真を増やした資料を作成した。また、MOと判断されると、児童・生徒や保護者、養護教諭が自然に治ると誤解し、かえって専門医への受診を妨げる事例も見られるので、歯科医院への受診を勧めるような判断基準としている。

 

2.協議事項

 

1)PowerPoint等、講話用資料の整備・共用について

神戸市より、各都市が製作した講話用資料を共用できるしくみを構築できないか、という提案があった。大阪市よりDropboxを利用する案が出された。各都市では個人的に製作した資料などもあり、次回、持ち寄り検討することになった。

 

2)学校歯科健康診断と歯科医院における診断結果が異なることへの理解・浸透について

北九州市より院内ポスターを作製したとの報告があった。

 

そのほか「各学校への通知の流れ」「学校歯科健康診断の統計資料の活用」「学校保健会以外での学校三師会との交流、共済事業」「養護教諭会との協議会」などについて協議された。

また、次回の開催都市である静岡市は前日歯科保健協議会に加盟していないので、大阪市学校歯科医会が名古屋市学校歯科医会の協力の下、代替開催することになった。

 

 

第66回指定都市学校保健協議会

 

5月17日(日)午前9:30より名古屋市学校保健会、名古屋市教育委員会の主催で名古屋国際会議場において開催されました。午前中は全体協議会と記念講演、午後からは課題別協議会が行われました。

 

〈協議主題〉

 「子どもの豊かな心と健やかな体を育み、たくましく生き抜く力を培うための学校保健活動の推進」

 

【記念講演】

トップアスリートから学ぶ子どもの健康づくり ~睡眠・食事・運動~

中京大学スポーツ科学部 教授 湯浅 景元 先生

 

講師の湯浅先生は浅田真央選手、室伏広治選手などのスポーツ選手を科学的にサポートしてきました。その睡眠、食事、運動に関する指導は、子ども達の健康づくりのための生活習慣形成の参考にできるとのお話をされました。日常、道具を使わなくても簡単にできる筋トレ法を体験したり、腰を痛めない正しいくしゃみの体勢を学んだり、短く感じる1時間の楽しい講演でした。

 

【ランチョンセミナー】

むし歯ゼロを目指して16年の歩み~120運動

名古屋市学校歯科医会 常務理事 池 昌男 先生

 

名古屋市学校歯科医会では、12歳児のう歯を3本以下に減らそうと、平成10年から123運動をスタートし、121運動を経て、平成25年からは新たに12歳児のう歯ゼロをめざす120運動を展開している。120運動には、歯・口の健康をマルの状態にするという意味もある。目標達成のためには幼少期から口腔衛生環境への意識向上と口腔環境の構築が必要である。小学校低学年児童の口腔環境向上には保護者の積極的な参加意志と協力が必要であることから、親子歯みがき教室により保護者教育を行っている。

 

【課題別協議会】

下記の4分科会に分かれて行われ、合計20題の口頭提言がありました。

第1分科会 健康教育「生涯を通じ、主体的に健康の保持増進に取り組む子どもを育てる健康教育」

第2分科会 保健管理「子どもの健康増進に役立つ保健管理」

第3分科会 心の健康「心の健康づくりをめざすための支援のあり方」

第4分科会 地域保健「学校・家庭・地域の連携で進める学校保健活動」

 

〈歯科関連抜粋〉

第1分科会 №2

歯科検診を題材とした保健指導による児童の生活行動と健康認識の変化

千葉市立上の台小学校 養護教諭 向後 美和

 

千葉市教育研究会保健養護部会小学校健康診断グループでは、児童の生活行動や健康認識に良い影響を与えたいと考え、教育的な健康診断の在り方について研究を行っている。 研究にあたり、グループ内の養護教諭を対象に、健康診断を通して児童に身に付けさせたい内容について調査したところ、歯科検診に関する内容が多く挙げられた。学校における歯と口の健康づくりは「生きる力」を育む大切な題材である。

また、健康づくり活動は「疾病発見・管理的解決手法」から「健康増進・支援的解決手法」へ転換していくことが重要とされており、健康診断における事後指導も同様のことが期待されている。

そこで、本研究では歯科検診を題材とした保健指導前後の児童の生活行動と健康認識の変化を分析し、健康診断後の指導としての保健指導の有効性を明確にしたい。

対象は判断力が増し、主体的に行動することが可能となり始める小学5年生とした。歯科保健指導実施1週間前と1週間後に10項目の歯科に関する調査を行い、児童の生活行動と健康認識の変化を検証した。

調査の結果をマクネマー法で検定したところ、10項目中「おやつをだらだらたべない」「砂糖の入っているおやつや飲み物をあまりとらない」「1日1回は丁寧に歯を磨く」の3項目に有意差(p≦0.05)が認められた。

歯科検診を題材とした保健指導を事後指導として行い生活行動に改善がみられたのは、自分の課題を実感できる体験活動を取り入れたり、学級全体で意見を共有できる場面を設定したりするなどの手立てを講じたことにより、児童の自ら健康を保持増進する意識が高まったからと考えられる。

 

第1分科会 №3

歯科保健教育によるヘルスケアプロモーションの確立

新潟市立新飯田小学校 学校歯科医 滝澤 賢一

 

平成25年度より2年間、本校が日学歯から指定校を受けた間に、歯科保健教育を有効に活用し、自立した健康づくりを行えないか、学校、保護者を含めた連携事業をおこなった結果を報告する。

新潟県は以前より虫歯が全国一少ない県を維持しているが、本校が位置する南区は新潟市にあって、小児の頃から虫歯の罹患率が最も高い。南区市民の健康意識は他区民に比べて低く、行政と市歯会が行う市民サービスにも追いついていないのが現状である。

 

〇2年間で重点的に行った事項

・各学年2時間ずつの系統的な歯科保健に関する授業。

・保護者の協力による一日三度の歯みがき習慣の形成、生活習慣強調週間の継続、発展。

・「歯のインストラクター制度」:歯磨きが上手く出来る高学年児童にはインストラクターになってもらい、下級生を指導する。

・「歯のカウンセリング」:小規模校の特徴を活かし、児童1名ずつの口腔内を細かく検診、歯磨きの注意点等を指導する。

・講演:本事業は児童が主体的に行うもので、講演はあくまで補填的なものと位置づける。児童向けの講演、保護者向けの講演、食育に関する講演。

 

歯ブラシは毎日行うもので、臨床においても結果が出やすく、健康意識の改革としては年齢に係わらず導入しやすい。児童の健康意識が高まると、それを家庭へと持ち帰り、家族へも影響を与える事が分かる。

残念ながら歯科に関しては、高校までは検診制度があるが、それ以降は、一部の企業を除き、殆どの自治体でも行われていない。また、疾病を抱える小学生は、中学生になってもそれを引きずる傾向にある。従って歯にとどまらず成人期までには、ある程度の自己管理ができる状況になって欲しいという狙いがあった。今後中学~高校へと進学していく中で、継続性があるかは長期的な観察が必要であると思われる。また、こういった事業は、学校の規模や生徒数によってアプローチの方法は異なるので、今後は各校連携した事業として、継続出来ればと考える。

 

第3分科会 №1

子ども虐待に対する学校歯科医の関わり~歯科からの支援について~

公益社団法人 川崎市歯科医師会 常務理事

川崎市立末長小学校 学校歯科医 川越 元久

 

10年以上の調査結果等から、子ども虐待の有無を口腔内所見のみで判断することは難しいと考えている。しかしながら、口腔清掃状態の不良や未処置歯の放置のような症状を認める子どもは、好ましくない養育環境で生活をしている可能性が高いと判断してもよいであろう。したがって、このような子ども達を見逃さないことが学校歯科医の役割ではないかと考えている。

現在、川崎市歯科医師会では子ども虐待に対する具体的な取り組みとして、「予防」「発見」「事後支援」の3つの観点から行っている。

 

(1)子ども虐待の予防

子ども虐待の予防には、発生、進行、連鎖、それぞれの予防がある。「発生の予防」としては、妊産婦健診、乳幼児健診の未受診者のように、虐待が起きる可能性の高い家庭を把握し支援することである。「進行の予防」としては、虐待の深刻化を防ぐために、関係機関が情報を共有し家庭内の環境変化に対応することである。「連鎖の予防」としては、約3割に認められるといわれている虐待の世代間連鎖を防ぐことで、虐待を受けた子どもが将来加害者にならないようにすることである。

 

(2)子ども虐待の発見

虐待の中でもネグレクトは、自ら進んで医療機関を受診することは希である。したがって、乳幼児ならびに学校健康診断等の受診率の高い健康診断で異常さや不自然さを発見する必要がある。そこで、推奨したいのが「不自然さチェックシート」の導入である。不自然さチェックシートとは、口腔内、子ども、親、親子関係の4つの視点から不自然さをチェックするものである。平成23年10月から、川崎市の1歳6ヶ月児健診ならびに3歳児健診では、これらを一部改変した「乳幼児支援確認項目」が行政の協力によって導入された。学校歯科医に対しても、学校歯科健康診断マニュアルを配付し、就学時健康診断、定期健康診断において「不自然さチェックシート」の利用を推奨している。

 

(3)子ども虐待の事後支援

児童相談所に一時保護されている子ども達の2/3は、なんらかの虐待を経験している子ども達である。一時保護されている子ども達の口腔内は、健全児と比べて重篤な症状を呈する場合がある。本会ではこのような子ども達の実情を理解し、診療に協力できる医療機関を「虐待フォローネットワーク」協力医として登録し、事後支援の一環としている。

 

学校歯科医は学校歯科健康診断の際に、口腔内の状況等から養育環境の悪い子どもを発見する場合がある。前歯が折れたまま放置されていたり、臼歯部のむし歯によって咀嚼障害が生じていることもある。このような状況であっても必要な医療を受けさせてもらえなければ、心の健康を損なうことは容易に想像できる。痛ましい事件が繰り返されるのを防ぐためにも、周囲の大人が「不適切な親子関係」に気づくことが大切で、それには注意深い観察力が必要である。学校歯科医はもとより学校関係者は、子ども虐待に対する責務の大きさと、極めて重要な立場にいるということを強く認識するべきであると考える。

 

(大川 晋一 記)