第63回全国学校保健研究大会

平成25年11月7日(木)秋田市の秋田ビューホテルにて第63回全国学校保健研究大会が開催されました。

 

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午後1時より開会式と文部科学大臣表彰の表彰式が行われました。札幌歯科医師会からは江別市立大麻東中学校の三上奬先生が表彰を受けられました。三上先生、受賞おめでとうございました。

 

つづいて午後2時から「青少年の健康危険行動と防止教育」と題して筑波大学体育系教授の野津有司先生による記念講演が行われました。青少年危険行動とは、「青少年期に始めやすく、本人や他者の現在および将来の健康や生命に重大な危険を及ぼす行動」のことであり、青少年期に危険行動が始まるとその後定着、悪化していくこと、各危険行動は相互に関連しあって出現するので早い時期から包括的に対処することが重要であり、それにより予防が可能であると話されました。

また、先生は米国CDCの調査を参考に、2001年と2011年に日本全国から無作為抽出された高校生約1万人を対象とした「日本青少年危険行動調査」を実施し、9つの危険行動(①身体運動、②食行動、③喫煙、④飲酒、⑤薬物乱用、⑥性的行動、⑦交通安全上の行動、⑧暴力・武器携帯、⑨自傷行動)について調査を行いました。その結果、10年間で男女ともに総じて良好な傾向に変化しており、これまでの防止対策・教育の成果が見られるが「自殺願望」がほとんど改善されていないことや「喫煙」は大幅に改善しているがゼロにはなっていない点など、これからも一層の対応が必要であると話されました。

そのためには社会的環境の整備が必要ではあるが、危険行動防止のための教育により育成すべき能力としてレジリエンスが注目されてきている。レジリエンスとは「弾性回復力」と訳されるが「社会の変化や困難を乗り越えて、たくましくしなやかに生き抜く力」と言い換えられるもので、青少年自身が自ら様々な悪影響をはね返し、障害や困難を乗り越えていく能力を身に着けることが重要であると話されました。

 

つづいて、危険行動を防止するために、学校で何をどう学ばせるかという点について、危険行動の防止教育の実践に当たり特に次の3点に留意する必要があると話されました。

 

① 教える内容の教育的価値について、子どもの発達の段階や実態を踏まえて慎重に吟味すること。

 

② 魅力的な教材を開発し、全ての子どもたちに真剣に考える時間と材料と仲間を保障すること。

 

③ 肯定的な指導の展開を重視し、自己を否定されない安心感のある学びの空間を確保すること。

 

具体的な指導方法として、ブレインストーミング、ロールプレイング、ケーススタディについてそれぞれ例を挙げて説明されました。

また最後に、青少年の危険行動を防止するには、学校、家庭、地域のそれぞれの専門性や特質等を生かした有機的な連携が不可欠であり、その鍵として「共通理解」と「相互尊重」、さらには「役割分担」と「協調的アプローチ」が重要であると述べられました。

 

2日目

 

第63回全国学校保健研究大会の2日目は課題別研究協議会ということで、10の課題別に5会場に分かれて開催されました。私達は第7課題「歯・口の健康づくり」に参加してきました。

生涯ににわたる健康づくりを実践するためには、自分の歯や口の健康に関心をもち、自分の課題を把握し、解決していくための資質や能力を育てる必要があります。そのための歯・口の健康づくりを目指した学校保健活動の進め方について協議がなされました。

 

コーディネーターの東京都教育委員会五十里一秋課長のもとで、3つの研究課題発表がなされました。

 

最初は高知県立四万十高等学校で「高知県の高等学校における歯科保健の取り組み」ということで、高校生期に歯周病をテーマに健康教育を行い、生徒の口腔保健の確立とその後の世代に向けての生活習慣病予防の支援を実施した研究です。自校の生徒には実態に応じて生活習慣アンケートを実施し、それを用いて生活習慣改善に重点を置いた保健管理と保健教育を行い、一定の成果を上げました。また、県立高校26校の女子生徒を対象に歯科健康診断と生活習慣調査、保健指導を実施し、生活習慣の改善効果を確認したとの発表でした。

 

2番目は秋田県仙北市立中川小学校で、より良い生活習慣づくりのため、家庭・地域との連携、関係機関との連携、日常の保健活動や保健教育等により、歯と口の健康づくりを行った実践研究でした。自分の行動を確認できる「元気満タンチェックカード」を用いての家庭と連携した健康づくりにより、就寝時間、朝の排便習慣、長時間ゲームの悪癖などが改善され、体全体を健康にすることに成功し、歯と口の健康をさらに高めたという内容でした。

 

3番手は我が地元北海道札幌市立定山渓中学校からで、地域的な条件から、生徒の7割が義務教育の9年間を通じて継続した歯科保健教育に取り組める意義について発表されました。定山渓小・中学校が合同で行う「和・歯・8020ワールド」が10年以上続いていることや、保護者や地域住民、学校歯科医が熱心に関わる生徒の定例研究発表会などが紹介され、生徒たちのヘルスプロモーションに対する意識に多大な効果をあげているという発表でした。

 

それぞれの研究発表後、五十里課長の総括があり、高等学校における保健管理・教育は、小・中学校のそれに比べ遅れ気味でしたが、徐々に進んできており、これからの重要課題であるとの話がありました。最初の四万十高等学校の研究に対しては、そのチェックリストが良くできていて秀逸であること、2番目の中川小学校の「元気満タンチェックカード」は目に見える形での実践教育として意義深いこと、3番目の定山渓中学校については10年以上続く小・中交流学習会について、諸条件を考慮してもなかなか実践できないことだと高く評価されました。

その後、質問や協議に入り、今回のそれぞれの研究発表が比較的生徒数の少ない小規模校でなされたものであり、これらの実践教育は中・大規模校でも可能なものなのかといった議論が活発に行われました。

最後に愛知学院大学の名誉教授中垣晴男先生の講演がありました。生涯にわたる健康管理の基盤となる歯・口の健康づくりの進め方「共通生活習慣の指導とセルフチェック力の育成」ということで、8020運動からみた学校における歯・口の健康づくりの大切さや、エビデンスのある歯・口腔の健康づくりの展開:専門家の責任、児童生徒のセルフチェック力の育成などについて有意義なお話しがありました。

 

(高橋修史 記)