第76回全国学校歯科保健研究大会

 

平成24年10月25日(木)・26日(金)の両日、第76回全国学校歯科保健研究大会が、 群馬県高崎市で開催されました。メインテーマを『「生きる力」をはぐくむ歯・ 口の健康づくりの展開を目指して』、サブテーマを「子どもたちの未来を築く望ま しい生活習慣の形成を見据えて」として研究協議が進められました。

 

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来賓挨拶では、大久保満男日本歯科医師会会長より祝辞があり、歯・口の機能と して大きく二つあり一つは「食べること」もう一つは「話をすること」であり、 生きる力につながると述べられました。
続いて第51回全日本学校歯科保健優良校の表彰式が行われ、優秀賞(文部科学大 臣賞)7校(園)、日本学校歯科医会会長賞8校(園)、日本歯科医師会会長賞10 校(園)の紹介と、表彰状授与がありました。

 

1日目  基調講演 「生きる力」をはぐくむ学校での歯・口の健康づくり
東京女子体育大学 教授 戸田芳雄

 

学校における保健教育、保健指導、組織活動の進め方について、養護教諭や校長 先生、学校歯科医へ基本的な考え方を述べられました。歯・口の健康づくりの活動 を実践していく上で、PDCAサイクル(Plan Do Check Action)を重視し、マネージ メントの担い手である学校教職員は「要」であるという自負を持つことが大事で ある。生活習慣の改善が「生きる力」を育む基礎となり、生涯を通じた心身の健康 づくりにつながる。
歯科保健活動に取り組むことにより、学力の向上、問題行動の減少、人間関係が 円滑になり、いじめやトラブルが減少している報告がある。本大会でのシンポジ ウム・領域別研究協議会を通して、発達段階に応じた管理や指導のあり方につい て成果があることを期待していると述べられた。

 

シンポジウム 子どもたちの未来を築く望ましい生活習慣の形成を見据えて

座長 東京医科歯科大学 名誉教授      黒田 敬之
① 群馬県教育委員会 スポーツ健康課 課長 林 康宏
② 鳥取県鳥取市立気高中学校 養護教諭   山本 みさ
③ 京都府京都市立向島二の丸小学校 学校歯科医 今井 健二

 

3名のシンポジストからそれぞれの立場で、取り組み事例の報告がありました。
①群馬県での公立学校では学校保健委員会の設置率、開催状況とも100%であり、 複数校が参加する地域合同保健委員会では、地域レベルでの組織体制づくりも進め られているお話しがありました。また、中学生までの医療費が無料となっており、
保健行政に熱心に取り組んでいる印象を受けました。
②では「自分づくり 仲間づくり 生活習慣づくり」を副題とし、保健導を通し 歯・口の生活習慣を改善することにより、健康以外にも成果が上がった事例の報告 がありました。
中学生期は子どもから大人への移行期であり、意思決定や行動選択は生徒個人に ゆだねられているが、思春期でもあるため心身ともに不安定な状態にあり、生活リ ズムや生活習慣が乱れても健康破綻につながることを理解することは容易ではない。
そのため、健康そのもに対する興味や関心は低くなっている。これらが、中学生期に おける生活習慣指導を難しくしている。
そこで仮説を2つ立て、課題解決にむけて意欲的に取り組む生徒の育成を目指した。

 

仮説1.自分づくり:自分の心身の状態を客観的にとらえることができれば、自分の課題に気づき主体的に健康行動を取ることができる。
仮説2.仲間づくり:自分の健康が周囲との関係性で成り立っていることを理解することが、望ましい人間関係にもつながってくる。
生徒が自分の口腔内の状態を「知らない」、口の中の変化にも「気づかない」、を解消するため健康診断を絶好の学習機会と捉え適切な行動選択ができるように、健康診断の持ち方を工夫した。健康診断場所を、「学習エリア」「健診エリア」「指導エリア」の3つにわけ、それぞれのエリアで意図的な働きかけにより、生徒に病気への気づきや、健康を維持するためのモチベーションの話しを実施した。
学校保健委員会では生徒も参加し、とかく無関心になりがちな年代に警鐘をならし「個人の健康は周囲の健康と相互に関係している」ことを専門家の先生方や保護者から意見を伺った。
その結果、生徒の変化としてDMF値の減少、長期欠席者の減少、けがや病気での保健室利用が減少したと述べられた。座長の先生からは仮説を立てて保健指導をされた、すばらしい発表とのコメントがありました。

 

2日目 領域別研究協議会

 

1.保育所(園)・幼稚園部会
2.小学校部会
3.中学校部会
4.高等学校部会
5.特別支援教育部会

 

各部会では、それぞれ2名の研究発表があり、名学校での実践活動についての報告と活発な質疑応答がありました。群馬県高崎市立長野郷中学校の高橋千明養護教諭からは、小中合同地域学校保健委員会を開催し、中学生が直接小学生に歯科保健の知識を伝えたり、意識を高める活動を行なうことで、歯みがきや基本的生活習慣をしっかり行っていこうとする心構えができるようになった、との報告がありました。
コメンテーターの大阪教育大学小山健藏教授より、学校における保健教育は「学習」と「指導」の両輪がよくかみ合うようにお願いしたいと述べられた。各会場での協議会終了後に、シンポジウム・領域別協議会の報告会が行われ、学校歯科保健にかかわる関係者がさらに連携を深め、歯・口の健康づくりを推進し、子どもたちの「生きる力」の育成に寄与していくことを大会宣言として、全日程が終了しました。

 

(塚本晃也 記)