第59回指定都市学校保健協議会<口頭提言1>

 

むし歯研究所シリーズ&和・歯・8020ワールド
札幌市立定山渓小学校・中学校 学校歯科医 平山泰志

 

TS3H0009

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.はじめに

まず初めに定山渓小学校のプロフィールの紹介です。

本校は、「支笏洞爺国立公園」内に位置し、札幌市の奥座敷と呼ばれる定山渓温泉街にある。
全校児童31名の小規模校で、平成17年度、開校100周年を迎えた歴史ある学校である。
小規模校の特色を生かし、我々が「小鳥グループ」と名づけた縦割りグループに分け、多くの場面で異学年とかかわりながら様々な活動を行っている。学年の枠を超えた取り組みを通して、自主性、社会性、思いやりや感謝の心などをはぐくむことをねらいとしている。

小鳥グループ単位での活動は、農園活動、遠足、運動会、宿泊学習、地域クリーン作戦、雪中運動会、全校給食、そして「むし歯研究所」である。

 

2.初めの3年間の歩みと成果と課題

平成12年度から17年度までの6年間、北海道歯科医師会の指定校を2期、平成13年度から2年間は文部科学省の委嘱を受け「歯・口の健康つくり学習」を進めてきた。
平成12年度は、児童や保護者へのアンケートを実施し、実態把握を行い次年度へ向けての準備を行った。

 

平成13年度―「こちらむし歯研究所」

全校縦割り学習として、1年生から6年生まで縦割りグループを利用し、グループの課題に向け、一人一人がむし歯博士となり、研究を深めていくという問題解決学習に取り組む。

 

平成14年度―「とびだせ.. むし歯研究所」

10月には3年間の集大成として、教育実践発表会を開催し多くのご示唆をいただいた。
11月には、グループで研究したことを学習発表会という場で多くの人に伝えていく活動を行う。
その成果として、
○縦割りグループで、安心して学び合えるよりよい人間関係が築かれている。
○学校歯科医との連携が密になる。
また、課題として
○低学年と高学年が、共通な課題をもつには無理があるのではないか。
○子供たちが生き生きと伝えられるように、学習発表会以外に発表する場を考えていく方がよいのではないか。
などが、挙げられた。

 

3.進化していく「むし歯研究所」

平成15年度―「広めよう.. むし歯研究所」

「歯・口の健康つくりは、中学校と合同で9年間行うことでより教育的効果が期待できる」という私からの要望と、地域的にも可能であることからこの年から小中合同の活動が実現した。

それまで1年生から6年生までの縦割りを、低学年と高学年のグループに分け、発達段階にあった問題解決学習に取り組む。調べたことを「和・歯・8020(わ・は・は)ワールド」で、中学生とともに地域・保育所・保護者へ発信していった。

「和・歯・8020(わ・は・は)ワールド」
和=地域・保護者・小学生・中学生が和になって
歯=歯を通して学び合い
8020=80歳の時に自分の歯が20本残るように

 

平成16年度―「ふかめよう!むし歯研究所」

「和・歯・8020ワールドパート1」では、札幌歯科医師会館に出向き、学校歯科関係者に対して研究したことを様々な方法で伝える。その反省を生かして「和・歯・8020ワールドパート2」では、中学生とともに地域・保護者・保育所に発信していった。

 

平成17年度―「もっとふかめよう!むし歯研究所」

「和・歯・8020ワールドパート1」では、開講百周年記念教育実践発表会において、教育関係者や地域・保護者に対して研究したことを様々な方法で生き生きと伝えることができた。

そこで得たノウハウを生かして「和・歯・8020ワールドパート2」では、中学生とともに地域・保護者・保育所に発信していった。

 

4.伝えることが一番楽しい

平成14年度「とびだせ!むし歯研究所」では、研究したことを学習発表会という場で伝えた。

前年度は、研究したことをグループ同士で見合うだけだったので、広く伝える方法の第一歩とした。しかし、ステージからの発表は、一方的で何か物足りなさを感じていた。
「和・歯・8020ワールド」では、ワークショップ方式でお客さんの反応を直に確かめながら伝えることができた。「よく調べたね」「おもしろかったよ」そ んな言葉を励みに、達成感を味わえたり、次の活動意欲につなげたりすることができた。子供たちは「和・歯・8020ワールド」で伝える楽しさを十分味わっ た。

平成16年度「和・歯・8020ワールド」の取り組みは成功したが、秋の歯科健康診断の結果は散々であった。春と比べると、永久歯のむし歯が増えたり、 歯肉の状態が悪かったり、明らかに歯磨きを怠る子が増えていた。学んだことが日常化されず、かえって悪い結果となってしまったのである。それは、歯の問題 だけでなく、基本的生活習慣の乱れが大きな原因になっていることが分かった。「歯の汚れは、生活の乱れから」あらゆる機会を通して家庭と地域と学校が一体 となって、子供たちを見守っていかなければならないと痛感した。

 

5.日常化と場に応じたコミュニケーション能力の課題

「和・歯・8020ワールド」を終えての最大の課題は、子供たちに、〝場に応じたコミュニケーション能力” が不足していることである。 シナリオ通りなら発表できるが、相手合わせ、場に応じた対応ができずに、突然の質問にとまどい教師の支援を求める姿が見られていた。日頃からのコミュニケーション能力を育成する取り組みが必要であると考えさせられた。

 

6.日常化につなげる取り組み

前年度までの課題である「日常の実践化」、つまり歯磨き習慣の定着を図るために、平成17年度から、年4回(6月・9月・12月・3月)の「歯みがき大 賞」の表彰を設け、年間を通して歯磨きの日常化を促す計画をした。年4回、学校歯科医や養護教諭が一人一人のブラッシング状況をチェックし、全員が「歯み がき大賞」を受賞できるよう、歯の磨き方を教示したり、水飲み場に歯の磨き方を提示したり、歯みがきタイムに子供たちの好きな音楽を放送したり、家庭に協 力依頼したりして、学校と家庭が一体となって、継続的な意欲付けを行っていくことにした。6月には10名、9月には9名、12月には25名、そして3月に は全員が「歯みがき大賞」を受賞できた。ある一人の子供が春の健康診断にてCO がたくさんあったが秋の健康診断ではゼロになった。

その子は「歯みがき大大賞」を受賞した。
全ての子供たちの意識は確実に変容してきている。

 

7.気付き考え行動する子

子供たちの様子が変わってきているのは、本校の重点目標である「気付き考え行動する子」の実現に向けて、歯・口の健康つくりだけでなく、学校教育活動全 体を通して、常に育てたい力を明確にし、きめ細かくかかわり評価する、指導と評価の一体化を図りながら、子供たちを育ててきた成果と言える。

6年前、気付くことができなかった子供たち、その後気付いても考えることができずにいた子供たち。そして気付いて考えたとしてもなかなか行動することのできない子供たちがいた。全教職員が共通の見解をもちながら日常的に子供たちの指導にあたっていくうち に、少しずつ子供たち自身が変容していったのである。

 

8.おわりに

昨今、学力低下が叫ばれ薬物乱用、性問題など児童生徒たちを取り巻く環境は悪化の一途をたどる中「歯・口の健康つくり」の題材は児童生徒たちに自分自身 を見つめ直し「生きる力」をはぐくむために有効な一つの手段と考えられ、問題解決学習を自分自身の体験として経験できる。さらに、むし歯の発生実験(酸脱 化)・口腔内のpH調べ・唾液の分泌量調べなどは理科の実験で利用でき、むし歯予防の図画・ポスターの作成は図工・美術で、調べたことを発表するためのプ レゼンテーションの作成はコンピューターの授業で応用でき、地域の人たちの口の中の状態や年齢分布の調べは社会科と密接に関係している。 「歯・口の健康つくり」の題材でここまで広げることが可能で、その中で児童生徒たちは「学び方」を学んでいく。極論かもしれないが「学び方」を学ぶことに よって学力低下さえも阻止できるのではないかと推測できる。