第63回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会並びに第63回指定都市学校保健協議会報告

平成24年5月19日(土)、20日(日)の両日、さいたま市において標記協議会が開催され、大橋担当理事、大川委員長が出向いたしました。

第63回指定都市学校保健協議会前日歯科保健協議会
5月19日(土)午後2:00より大宮ソニックシティにて開催されました。さいたま、仙台、川崎、名古屋、大阪、神戸、岡山、広島、北九州、福岡、相模原、札幌の12都市の歯科医師会または学校歯科医会の参加がありました。

主題「児童虐待における学校歯科医の役割」
提案理由
最近、わが国で児童虐待が急増しており、児童相談所では現在年間4万件以上もの対応に追われている。被虐待児童の多くは乳幼児・学童期の子供であって、 この時期、歯科関係者は1.6歳児・3歳児歯科健康診査や、乳幼児歯科相談あるいは就学時歯科健診や学校歯科健診などの場で日常的に乳幼児・児童に接して いることから、虐特に対する理解と専門家としての対応が必要となってきた。そして今後、歯科医師は虐待防止に十分な知識を待って、早期発見に努めることは もとより、地域における虐待防止活動にも積極的に関わり、子育て支援の観点からも関係者に適切かつ専門的なアドバイスを提供することが必要、不可欠であ る。そのためには、まず、児童虐待、特に「養育の放棄・怠慢」(Neglect)とその生活習慣に起因すると思われる口腔内状態との関連を明らかにし、関 係者が口腔所見を共有し得るシステムの構築が必要である。
そこで今回、学校を中心とした地域の連携による児童虐待の発見や防止、具体的な方策、そのなかの学校歯科医のかかわり方などについて協議し、児童虐待における学校歯科医の役割を考える契機としたい。

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協議に先立ち、「子どもたちの生活は今 ―Advocatorとしての歯科医の役割―」と題して明海大学歯学部口腔小児科学分野教授 渡部 茂による講演が行われました。
虐待やいじめの原因となり得る、発達障害やうつ病、貧困などの現状を示され、下記の要旨で基調講演とされました。

〈要旨〉
子どもの口の中は生活を表している。ある子の口の中を診ると、その子が今どのような生活をしているのかといったことがおぼろげながら感じられる。年齢と 共に変化する口腔を長期間、定期的に観察し、口腔疾患の背景にある様々なことを読み取ることが、子どもを診る歯科医に求められる基本的なスタンスと言えよ う。
最近の子どものう蝕数の減少は、彼らの生活情報をより鮮明に我々に提供することとなった。親の口腔衛生に対する理解によってう蝕数が減少したことによ り、一部の親の無視、放置によるう蝕があぶりだされるように露呈してきている。今まで全く見えていなかった親によるネグレクトという事実が、子どもの口腔 に、う蝕という思いがけない証拠として現れてきたのである。私たち歯科医は、歯科の領域から一歩踏み出し、口腔に現れるサインとしてそれらを読み取り、速 やかに行動することが求められている。すなわち子どもたちに行う口腔健診は単に歯科医院受診を促すためのものではなく、子どもの生活環境を探るための調査 として行う意識改革が望まれる。

子どもたちは様々な大人たちの支えがあって成長していく。子どもを取り巻く多くの大人たちが連携をとらなければ、子どもたちの世界はけっしてよくならないであろう。歯科はその中にあって子どものAdvocator(代弁者)としての役割を十分に発揮できる領域と思われる。

 

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川崎市と広島市の取り組みについて口頭提言が行われ、それをもとに協議が行われました。口頭提言では、虐待の早期発見・通告ばかりでなく、虐待の予防や、保護された子どもの歯科診療等、事後支援への取り組みが報告されました。
協議では、虐待を疑って学校に通告したにもかかわらず学校側の対応が鈍い場合に、関係機関に直接連絡すべきか、などの意見交換が行われました。最後に中 田 郁平 日学歯会長が、「学校歯科医は、まず学校の方を向いて話をし、連携を取るのが第一」という趣旨の講評をされ、終了致しました。

第63回指定都市学校保健協議会
5月20日(日)午前9:30より開催されました。午前中は全体協議会と記念講演、午後からは課題別協議会が行われました。

 

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協議主題 「生き生きと輝く子どもたちを育むための学校保健の推進」
主題設定の理由
近年の社会環境や生活環境の急激な変化は、子どもたちの心身の健康にも大きな影響を与えており、生活習慣の乱れや問題行動など、新たな課題を生み出している。
平成23年に小学校で、さらに本年は中学校において新学習指導要領が完全実施された。この新学習指導要領は、従前の指導要領と同様、子どもたちの「生き る力」の育成をねらいとしたもので、学校現場では学校保健の推進の大きな後ろ盾となるものである。この「生きる力」を育み、我が国の明日を担う人材を育成 することは、何よりも保護者を始めとする市民共通の願いであり、すべての大人に課せられた責務である。
そこで、本協議会においては、自ら学び自ら考え、目を輝かせ夢中になって学習する、そんな生き生きと輝く子どもたちの育成を念頭に、医師会・歯科医師 会・薬剤師会を始めとする医療関係者や各種団体等と、学校・家庭・地域が連携し、学校保健について研究協議するものとする。

記念講演では、大道芸人でもある数学者、ピーター・フランクル氏が「21世紀に羽ばたくための学習法」と題して講演されました。また昼食時間には、ラン チョンセミナーとして自治医科大学付属さいたま医療センター産婦人科教授、今野 良 先生が「子宮頸がん予防」について講演されました。ちなみに当日用意されていたお弁当はこれです。

 

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【課題別協議会】
下記の4分科会に分かれて行われ、合計24題の口頭提言がありました。
第1分科会 健康教育 「健やかに生きる力を育むための、組織的な健康教育」
第2分科会 保健管理 「自己管理能力を高め、健康の保持増進を図るための保健管理」
第3分科会 心の健康 「よりよく生きるための心を育む保健活動の推進」
第4分科会 地域保健 「学校がコーディネイトする地域と一体になった保健活動」

歯科関連抜粋
第4分科会 口頭提言1
「家庭とともに学びを支える歯と口の健康教育」
京都市立小栗栖宮山小学校 養護教諭 金澤 真弓 保健主事 宮下 佳子
児童を取り巻く現状には,厳しいものがある。生活習慣の乱れ・不登校など保護者の協力が得にくいという壁もある中で、教職員が歯と口の健康づくりを中心 とした健康教育について共通の認識をもち、様々な取組を進めてきた。その結果、歯科保健に対する児童と家庭の関心・意識の高まりやむし歯の早期治療・歯み がきの定着などの行動変容がみられつつある。平成23年度の保護者アンケートでは、8割以上の家庭で歯みがきが習慣化しているという結果が出た。同じよう に、給食後の歯みがきも8割の児童が習慣としてできるようになってきている。また、これまでむし歯の治療が困難であった家庭も受診できるようになってき た。
健康教育は、児童の学びを支えるための根幹であり、児童や家庭状況の変化を分析し柔軟に対応していくことが大切である。今後も、学校の様々な取組を児童の生活の場である家庭や地域に発信し、連携をさらに進め児童の「学び」を支える健康教育を進めていきたい。

第4分科会 口頭提言3
「生活習慣(歯と口)つくりからはじめる健康な心と体~学校・家庭・地域とともに~」
神戸市立和田岬小学校 教諭 辻 丈治
平成21年から2年間にわたり、歯と口の健康つくりに取り組んだ。授業を中心とした各取組により、子どもたちの健康に関する意識も変わってきた。自分の体を大切にし、友達の体も同じように大切にしようとする心が育ってきた。また家庭の健康への意識の向上にもつながった。
基礎的な学力を身につけるには、しっかりとした生活習慣の確立が鍵となる。健康教育の推進を、今後も引き続き学校全体で取り組み、家庭や地域と連携を深めていきたい。